特集:旅メディアに聞く!
改めて、旅ってなんだ……?

近年、旅の形が多様化しています。宿泊先や移動手段の違いだけでなく、旅に求めるものも人によってさまざま。それでも、いくつになっても知的好奇心に導かれて、新たな発見ができる旅の醍醐味は変わりません。
今回は旅のオーソリティ3人に、その奥深い魅力についてお話を伺いました。印象的なエピソードや旅の楽しみ方をヒントに、皆さんも自分なりの旅を再発見してみませんか。それで結局、あなたにとって、旅ってなんだ!?


1.旅とは、平和のきっかけだ

旅には固定概念を覆す力がある

私が編集をしている『TRANSIT』は、地球上に散らばる美しいモノ・コト・ヒトを求めて旅をするトラベルカルチャー誌です。世界には戦争や気候変動などで消えていってしまう光景がありますが、価値観や経験則をリセットして世界を見つめ、風景、生物、人びと、暮らし、歴史を掬い取りたいという思いで制作しています。毎号の特集は、その時にアツいエリアを取り上げて、編集部で話し合って決めています。58号でフィンランドを特集したのは、日本でサウナが流行っていたことがきっかけでした。加えて、フィンランドがNATOに加入するかどうかが国際情勢に影響を与えるタイミングでもありました。そういった社会的な面も重視しています。

私自身が旅を好きになったきっかけは、大学時代に中東に足を運んだことでした。ニュースを見ていると「イスラム圏は怖い場所だ」とされているような印象がありましたが「本当なのかな?」と感じていたんです。それで「実際に行ってみたい」と思ったのが始まりです。行ってみたら、出会う人はみんな優しくて、たくさん助けられました。そうやって自分で体験することで、印象って変わるんですよね。

『TRANSIT』でコーカサス地方を特集した時には、アルメニア~ジョージアを陸路で移動する機会がありました。乗り合いバスで言葉も分からず一人あたふたしていたら、同乗していたロシアの人たちが助けてくれて。彼らは経済制裁の影響で、ロシア国内ではクレジットカードや銀行口座が作れなくなったから、隣国ジョージアまでカードを作りに来たそうなんです。目の前にいる優しい人たちが困っている現状と、ニュースで流れるロシアのイメージとの差を感じました。

旅には、固定観念を覆す力があると思います。知れば知るほど、その人や国のことを一言では判断できなくなってきます。旅を重ねることで好きな場所が増えていき、世界のいろんな場所を好きになれたら幸せだし、壮大な話かもしれないけど、それが世界平和につながったらいいなと思っています。


出会いのコツは、誰かに聞くことと歩くこと

いいお店やおもしろい場所を見つけるには、現地の人に聞くことと、歩くことが欠かせません。旅では1日4~5万歩は歩いて、駅で会った人やカフェで隣になった人に「グッドでチープなレストラン知ってる?」って話しかけちゃいます。突然話しかけるのはハードルが高いかもしれないけど、現地の人に聞くだけで、パッケージツアーとは全く違った旅になりますよ。

アルメニアを特集した時は、アルメニアの普通の人の生活を紹介したいと思っていたのですが、日本で得られる情報がほとんどありませんでした。それで、アルメニアの田舎の村に行き、アポなしで「お家を見せてくれませんか」と突撃したんです。突然知らないアジア人が来たら怖いと思うのですが、ちょっと頑張って現地の言葉で話をしたら、意外と心を許してくれるんです。最後には「晩ごはん食べていってよ」「ケーキ食べてよ」って歓迎してくれました。

お家訪問などは危険なこともあるので無闇に真似はしないでほしいのですが、現地の人とどんどんコミュニケーションをとると、旅がよりおもしろくなります。私は英語じゃなくて現地語で伝えたいから、毎回少しでも現地の言葉を覚えていくようにしています。十分に話せなくても、「話す気があるんだぞ」っていうのが伝わると、相手の方も心を開いてくれるんです。旅に行く時には「ありがとう」と「おいしい」、「かわいい」などの褒め言葉はマスト。この3つがあればなんとかなります。


『TRANSIT』諸角さん流旅のプランとは?

私は人が好きなので、旅先では人の動きを見ています。「このおじさん、今日もここにいるな」とか「夕方になるとここに人が集まる」とか。同じ街に何日もいることで、街のルーティーンが見えてくるのがおもしろいんです。旅では、ぜひ現地の人が集まっている店に行ってみてください。現地の人が行くところに行けば、失敗はありません。

反対に、王道観光ルートへは行っても行かなくてもいいと思っています。私もインドに3回行きましたが、タージマハルには行ったことがありません。「ここに行かなきゃ」って思うよりも、自分の「好き」を起点にするといいと思います。旅の目的は疲れることじゃなくて、楽しむこと。おもしろいことに出会ったら、現地で予定変更もアリです。ぜひ好奇心を持って飛び込んでみてください。思っていたものと違っても、その場所について知れたと思えば、それは失敗の旅ではないんです。

旅に行って好きな場所が増えると、本やニュースを見ていても「ここにはこういう人たちがいるな」と、関心のある場所が増えてきます。心のお守りが増えていく感覚ですね。普段は時間がどんどん流れていってしまうけど、一歩外に出ると時間の流れも違います。それに、旅先で話したり歩いたりすることで「自分はこんなことを思うんだ」とか「人ってこんなにやさしかったんだ」と気づけるんです。私にとって旅は、凝り固まった日常をほぐして、心をどんどん柔らかくしてくれるものだと思っています。

旅の必需品自作の単語帳

現地語の単語やフレーズを単語帳に書いて、ポケットに入れて持ち歩いています。旅の間に言葉が上達して、ちょっとずつコミュニケーションが取れるようになる感覚がおもしろいんです。

2.旅とは、新しい感覚との出会いだ

SNSは想像しなかった偶然に出会える場

私は2018年に『オトナ旅』を運営し始めました。当時は、instagramで旅行先を探すことは今ほど当たり前ではなく、「京都に行きたい」と思って検索しても、出てくるのは修学旅行で行ったような超有名な観光地ばかり。「行ったことのない場所、今まで知らなかった場所に行きたい私のようなオトナたちは困っているだろうな」という思いが『オトナ旅』開設のきっかけです。メディアを立ち上げるときにSNSを選んだのは、偶発的な情報との接点が作れるから。Googleで検索をすると、自分の頭の中にあるワードしか検索できません。でも『オトナ旅』を見ると「このパターン全然考えていなかった!」という発見が得られると思います。

旅に出るのは「価値観が凝り固まってきたな」と感じる時です。環境を変えるために旅に行くことが多いですね。普段、岡山県で働いているので、「得られる情報が偏ってきた」と感じることがあるんです。それが、旅に行きたくなるタイミング。岡山は晴れが多く地震が少ない良いところですが、歴史や文化が異なる場所へ行くと、また違った感覚を得ることができます。「こんな考え方もあるんだ」という気づきを得られるのが、私が旅に行く理由の一つです。


旅には固定概念を覆す力がある

行き先は、その土地でしか食べられない食事を中心に決めることが多いです。良いお店の選び方にはテクニックがあります。例えば「グルメサイトにプロが撮った写真を載せていない」とか「Google mapの口コミに返信していない」とか。おじいちゃんがやっている渋い店は返信しませんし、ローカルで愛されているお店はする必要もないですよね。海鮮系のお店なら「毎日メニューを書き換えているお店」でしょうか。日本には四季があって、魚には旬がありますから、本来、1年中同じ魚を出すのは難しいんです。旬を外れた魚を出せるってことは何か理由があるわけです。

とはいえ、現地に着く前からお店を調べることはあまりありません。「サウナに入るためにこのホテルに行く」とか「このホテルに泊まってみたいから新潟に行く」など、目的だけを決めて後は現地のなりゆき。目的地に着いたらまず地元の喫茶店に寄って「初めて来たのですが、魚を食べるならどこがいいですか?」って聞いてみます。そうするとローカルな魅力あふれる場所に辿り着くことができるんです。以前、広島県と愛媛県を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」を渡った後、サウナで一緒になった人に聞いた居酒屋へ向かいました。すると「ほんまにおるんか見に来たぞ」と、その人も来て。お酒をごちそうになりましたね。


世間の平均評価よりも感性が合う人のレコメンド

今までとは違う旅がしたいと思っている人は「旅の計画の順番を変えてみる」というのはどうでしょう?例えば、普段は目的地→ホテルと決めていく人なら、ホテルを先に決めてみると、これまでとは違った旅ができると思います。私のホテルの選び方は「自分と似た感性の人が好きと言っているかどうか」。例えば、ホテルのinstagramを見てみると、そのホテルを投稿にタグ付けしているユーザーも見られますよね。その人たちのアカウントを見ると、自分の琴線に触れるかどうかが何となくわかります。家族連れがたくさんタグ付けをしていたら、家族で泊まるときも安心ですよね。これはグルメサイトでも同じ。口コミのなかでも、自分と感性の似た人の口コミが重要なんです。

下調べをしたい時は、YouTubeで調べてみてください。静止画より動画の方が情報量が多いので、ホテルの公式画像ではわからなかったことが見えてくることがあります。「思ったよりいい!」というのもあれば、逆のパターンもあります。

信頼できる人のプランに全力で乗っかってみる

一般的に、旅行プランを決める時は「2時間くらいで行けるところ」などと考えたりしますよね。意識的に考えなくても「1泊2日だとこのあたりかな」など、無意識のソートがかかっていることもあります。その時点で範囲が狭まっているんです。旅のスタイルは人それぞれですが、写真を見てピンと来たビジュアルから場所を選ぶと、普段は思いつかない選択肢が生まれてくるはずです。

私自身は「目的地だけ決めて、あとは現地で決める」という旅のスタイルです。ホテルが決まったら、もう事前にやることはありません。何もかも決めてから行くと経験の範囲をあらかじめ狭めてしまうと思うから。どんな旅になるかわからない不安よりも「行ったら何があるんだろうな」という心持ちで、自分一人では知るはずがなかった場所やお店に出合えるワクワクを楽しんでいます。

信頼している友人に誘われたなら、場所も聞かずにOKしています。旅のメンバーで合意をとって行く場所を決めると、あたりさわりのないルートになってしまうことが多いですよね。でも、刺激を求めて旅に出るなら、誰かのスタイルに乗っかった方が絶対におもしろいんです。

今後は、スマホと時計を見ない旅にも挑戦してみたいですね。先日試しにやってみたら、スリリングで新鮮だったんです。旅行先ではとくにGoogle Mapや時計を頻繁に見てしまいますから、あえて封じることで感じられるものがあると思っています。

旅の必需品SONYのコンパクトデジタルカメラ

一眼レフは重いので、ポケットに入るコンデジに落ち着きました。旅先では人や景色を何でも撮って、家に帰ってきたらプリントします。友だちが来た時にも話のネタになりますよ。

3.旅とは、おもしろがることだ

好奇心×想像力机上にないものを探しに

僕は『旅の手帖』という旅行雑誌の編集長をやっています。当社は時刻表を出している会社なので、1977年の創刊以来、より正確で信頼できる情報を提供しようとモデルコースの紹介をメインに行ってきました。しかし、コロナ禍を経て僕が編集長になり、「これからの旅行雑誌はどうあるべきか」を考えた結果、2023年5月にリニューアルを行いました。

リニューアル号の特集は「すごい宿」。僕らの親世代にとって、旅は贅沢なものの一つでしたが、今はそうではありません。豪華な温泉宿に行って……という上げ膳据え膳の快適な旅も一つの選択ですが、これからはそれだけではなく、旅によって気づきや学び、初めての体験など、一つの成長体験を得られることが重視されるのではないかと思います。
また、最近は好みが多様化し、ツアーの選択肢も増えました。でも、選択肢が多いから選びきれず、「どうしていいか考えているうちにGWが過ぎていった」という人もいるんじゃないでしょうか。旅行雑誌としては、そんな中で何かのヒントを与えられたら、みんなの刺激になったら、と考えて作っています。

僕は旅=好奇心だと思っています。そして、好奇心は想像力と密に繋がっている。好奇心があって、想像力が生まれて、またそこに好奇心が生まれる。「なぜ現地に足を運ぶか」というと、検索して答えが出るものじゃないからですよね。机の上で答えが出るものじゃない。想像力には答えがありません。だから、より大きな想像力を持ってもらえたらという想いで雑誌を作っています。


人が住んでいる限り、つまらない場所はない

以前は『散歩の達人』の編集長もやっていまして、同誌が創刊したのは僕が入社した翌年でした。僕らの頃の20代は「東京で遊ぶ」といえば、女性が楽しむオシャレスポットかデートスポットでした。いかにお金をかけて贅沢に過ごすかが東京の楽しみ方だったと思います。一方の僕は東京生まれ東京育ちですが、地味な生活を送っていました。それでも東京が大好きで、東京のおもしろさはいろいろあるはずだと思っていたんです。旅雑誌はすでにたくさんあったので、「東京を旅する雑誌があってもいいのでは?」と考え、同じようなことを考えていた上司と一緒に『散歩の達人』を創刊しました。

『散歩の達人』では「武蔵小山・戸越銀座大特集」をするなど、当時、他のメディアではやっていなかった場所を取り上げました。普段、中央線沿線に住んでいる人が突然武蔵小山に行くと、やっぱり違う日常があるんですよ。東京は多層的でモザイクで、ちょっと場所を移動すると違う暮らしが見えてくるのがおもしろいんです。それと同じで、旅は距離の問題ではなく、旅する目線で見ると近所でも発見がある。人が住んでいる限り、特集できない街はない。同じ目線で見れば、日本全国つまらない土地はありません。だから「どうでもいいところ」に途中下車する良さをすごく大事にしています。

昔、男友だちと青春18きっぷの旅行をしたことがありました。青春18きっぷは貧乏旅行ができるのもいいところですが、大人になったのだからギャンブルな旅行をしてみたくなって。トランプを引いて4種類の記号で東西南北を決め、出た数で降りる駅を決めるというルールの旅でした。目的地を偶然に任せて決めるので、自分たちがどこに行くのかはわかりません。東が出て、「そっちは海だよな」と船で島まで渡り、1泊したこともありました。島へ渡してくれた漁師さんに宿を紹介してもらったら、たまたまその日で閉める宿だったんです。仕込みすぎないからこそ、そんなプレゼントもあります。他にも、「鮫駅でサメを食えるか」を試したり、「夜ノ森駅」という名前の響きが気になって行ってみたり。そこですぐに検索するのは野暮ったい。どうしようもないお題を掲げて、自分たちでやりくりして楽しむのも大人の旅ですよね。せっかく行くなら見どころを押さえようというのも人情かもしれないですが、それだけを目的にすると「現場を見た」っていう充実感だけで終わってしまいます。

もしも何も行き先が思い浮かばなかったら、「初めての○○」などテーマを決めてみるのもいいかもしれません。「初めての宿を決めない旅」はどうでしょうか。スリリングですが、日本にいたら泊まる場所がないということはありませんから。いざとなったら観光協会に飛び込めばいいし、コンビニの店員さんに聞いたら、自分のおばあさんの家を教えてくれたことだってありました。


捨ててきたものを拾い直す50代からの「初めての旅」

「旅に行こう」と大げさに考えすぎる必要はありません。今は、各種アクティビティなど、刺激的でおもしろいことがたくさんあります。せっかくこんなに選択肢があるなら、機会を逃すのはもったいない。気持ちひとつで、世界は楽しいことに満ちあふれているんです。

僕は50代ですが、やってきていないことがたくさんあります。みんなはやってきたけど自分はやっていないこと、行ったことのない場所も多い。例えば、サウナが流行っていますが、水風呂が食わず嫌いだったんです。先日、仕事で生まれて初めて水風呂に入り、「こんなに気持ちいいのか」と気づきました。大小に関わらず、ささやかでも初めてのことはたくさんあるはずです。50代からの初めては楽しいですよ。

当たり前ですが、自分の人生は自分の分しか生きられません。これまでの50年はいろんな選択をしてきました。選択をしたということは、捨ててきたものがあるということ。それを拾い直すのが、旅につながるんじゃないかと思います。温泉一つとっても、「泉質が同じでもこんなに違うんだ」とか「朝と夜でお湯が変化している」ということに気づくのはおもしろいですよね。「これは自分しか知らない」「自分だけの思い出だ」という気持ちは快感でもあるし、一つの成長体験としても豊かな時間です。いくつになっても「初めて」は絶対にありますし、歳をとっても刺激を受けられる旅は、素晴らしい体験だと思います。

旅に出るときは準備をし過ぎず、ぜひ「また行けばいいや」という気持ちで行ってみてください。後悔しても、その感情が旅を忘れ難いものにしてくれます。残してきたものがあるというのは、非常に豊かなことなんです。

絶景の海を望む淡路島の高台にある一棟貸しの宿

旅の必需品ニコンの双眼鏡

100年以上前に発売された、手のひらサイズのコンパクトな双眼鏡です。星も綺麗に、旅先での眺めをより楽しむことができます。芝居やライブなど舞台鑑賞でも便利。20代の頃から、約30年間使い続けています。

4.それで結局、旅ってなんだ?
結局、旅って知的好奇心だ!

旅のオーソリティによる三者三様の旅のこだわり。そこに共通してあるのは、知的好奇心ではないでしょうか。新しい知識、体験、価値観……。旅には、自分の世界を広げ、まだ知らない世界とつながるためのたくさんの出会いが待っています。
ホテルから先に決めるのもいいですし、偶発的な出合いを求めてレンタカーを走らせるのもひとつの手。この夏は、さまざまな知的好奇心を満たす、新しい旅に出かけませんか。

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