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特集: ほこりの中にもカビがいる!
研究者が教える正しいカビ攻略法
案内人
カビの研究者 千葉大学真菌医学研究センター
矢口 貴志 准教授
カビの研究者 千葉大学真菌医学研究センター
矢口 貴志 准教授
明治製菓(株)の研究員として、カビを活用した薬の開発に従事。現研究センターに移ってからは、約20年にわたり、人に悪い影響をおよぼすカビの同定(=種名を見極めること)と分類(=生物学的な所属を定めること)に携わっている。好きなカビは、自身も協力するドラマ『もやしもん』のキャラクター・オリゼー。
梅雨になると増えがちな、すまいのカビ。効果的に対策するには、カビの生態や増えるワケを知ることが大切です。今回はプロの解説で、そもそもカビとは?といった基本的な部分からおさらいします。この梅雨から正しいカビ対策を始めて、すまいも心もすっきりさせましょう。
そもそも解説。
カビってなに?
カビは微生物の一種。キノコや酵母とともに、真菌に分類されます。細胞に核膜がある真核生物のため、核膜がない細菌とは性質が違い、対策方法も異なります。
カビは胞子を飛ばして広がります。着地すると菌糸を生やして胞子を作り、増えていきます。人間が目にするカビは、胞子の部分。1つの胞子は普通2~5µm(1µmは1mmの1/1000)のため、認識できるときには膨大な数の集合体になっています。
自然界でも、住宅の中でも、目に見えない小さな胞子が空中に漂っています。その数は、1m³あたり100~1000個ほど。同じ家の中でも、場所によってその数は大きく異なります。
カビにはアレルギーや感染症など、人間に有害な症状を引き起こすものもあります。チーズなど食品づくりに使用されるカビは、長い歴史の中で安全性が確認されていますが、発がん性の強いカビ毒・アフラトキシンは加熱調理しても有毒のままです。どのカビが有害なのかを判断するのは難しいので、カビが生えてしまった食べ物は口にしない方がよいでしょう。
温度・湿度・栄養源。
カビ増加の3拍子がそろう梅雨どき
カビは20度~30度の温度、60%以上の湿度、そして栄養源の3つが揃うと増えます。まさに、梅雨どきのすまいは絶好の条件です。
カビの胞子は、皮脂や石鹸、髪の毛などの栄養源に落ち着くと、1日かけて菌糸を伸ばして定着し、増えていきます。また、土の中にも多く生息しているカビは、砂埃や野菜の土、泥んこで帰ってくる子どもの服などを通して家の中へ持ち込まれることにも注意しましょう。
梅雨はカビのベストシーズンですが、カビを持ち込まないこと、定着を防ぐこと、そして増やさないことを意識すると、より効果的な対策ができるでしょう。
じつはほこりの中にも。
すまいのカビを知ろう
およそ10万種が報告されているカビですが、すまいのカビは10~20種ほど。大きく2種類に分けて、それぞれの特徴をご紹介します。
1.ほこりの中にいるカビ
カビ=湿気のイメージが強いかもしれませんが、なかには乾燥に強い種類もいます。ほこりに定着して増殖するため、一見ただのほこりでも、その中にはカビが潜んでいることがあります。ほこりが溜まりやすいところは風通しが悪く、カビが定着しやすい環境なのです。さらに、カビが増えるとそれを食べるダニも増えるため、ほこり・カビ・ダニの死骸などが合わさって、ハウスダストアレルギーの原因のひとつになります。それだけでなく、アスペルギルスというカビは免疫の低下した人に肺炎を引き起こす可能性があります。
代表的なカビ
アスペルギルス ペニシリウム クラドスポリウム
2.水まわりのカビ
湿気を好むカビです。キッチン、お風呂、洗面所といった水まわりでよく育ちます。火を使うキッチンやお湯を張るお風呂は冬でもあたたかく、結露しやすいシンク下は湿度が高くなりやすいため、梅雨だけでなく1年中注意が必要です。見た目にも良くないことはもちろん、エクソティアラという黒いカビは傷口から入ると炎症を引き起こします。水まわりの掃除のときはゴム手袋をして直接触らないようにしましょう。
代表的なカビ
ロドトルラ クラドスポリウム エクソティアラ
今日からできる
カビの予防&対策Tips
温度・湿度・栄養源、定着をキーワードに、日々実践できるカビの予防&対策をご紹介します。生活スタイルやご自宅の環境に合わせて、できることから始めてみてください。
@こまめな掃除
家の中のほこりはカビ発生のもと。ほこりの中には栄養源となる有機物が混ざっていますので、ほこりを取り除くことで、カビの増加を抑えることができます。また、一般的には掃き掃除から拭き掃除の順番ですが、カビ対策では逆。先に拭き掃除でカビの胞子を取り除いてから掃き掃除をすることで、掃除中にカビの胞子が舞うのを防ぐことができます。
Aエアコン掃除
ほこりの溜まったフィルターはカビの増殖ポイント。増えたカビがエアコンの風にのって部屋中に広がってしまうため、2~3週間に1回はフィルターを掃除しましょう。また、結露で湿度が高くなりやすいエアコン内部も、年に1回はプロに専用の機材でクリーニングを頼むのがおすすめです。
B換気
湿度を下げて増加を防ぎ、風を通すことで定着を防ぎます。とくに、機密性の高い住宅では有効です。しかし、窪地で湿気がこもりやすい、道路の近くで砂埃が入りやすい、といった環境では逆効果になることも。ご自宅の環境に合わせてタイミングや頻度をコントロールすると良いでしょう。外出の際には、換気のためクローゼットやシンク下などほこりや湿気が気になる場所を開けっぱなしにしておくことも効果的です。
C扇風機やサーキュレーターで
風を通す
カビの定着を防ぐためには、家電で空気を動かすのが有効です。定着には1日かかるため、毎日行うことがポイント。風を通しながらほこりを取り除くために、フィルターつきの空気清浄機を使うのも効果的でしょう。ほこりやカビが舞わないよう、使用前にあらかじめ掃除することも忘れずに。
D衣服やラグはクリーニングへ
皮脂がつき、汗で湿った衣服やラグはカビのもと。クリーニングで汚れを取り除き、カビを防ぎましょう。また、衣服のクリーニング後は、ビニールカバーがかかったままクローゼットに入れると湿気をとじこめカビの原因に。不織布など風通しのいいカバーにかけかえましょう。
E部屋干しよりお風呂場乾燥
雨の多い梅雨どきや花粉が気になる季節は、部屋干しの頻度が多くなります。しかし、部屋干しは部屋にバケツで水を撒いているようなもの。部屋干しによって湿度が上がり、家の中がカビ好みの環境になってしまいます。部屋の湿度を低く抑えるには、お風呂場乾燥が最適。浴室が高温になることで、カビの活動を抑える効果もあります。
F土つき野菜は
洗ってから冷蔵庫へ
野菜は新鮮さを保つためにと土つきのまま冷蔵庫に入れる方もいるかもしれません。しかし、土にはカビがいるもの。温度の低い庫内でもゆっくりとカビは生育します。洗って水をきってから冷蔵庫に入れると良いでしょう。
カビも暮らしやすい現代住宅
予防と対策を進めよう
冬でもあたたかく高気密な現代の住宅では梅雨どきだけでなく、1年中カビが生えやすい環境が整っています。もしカビが生えてしまった場合は、カビとり洗剤を使うなど場所や種類に合わせて対応しましょう。それでも取りきれないカビは、クリーニングのプロに頼んでみてください。浴室のダクト清掃やエアコンの洗浄など、自分では掃除できない場所のクリーニングを定期的に行うことも、カビ予防に有効です。
梅雨をきっかけにカビの生態や増えるメカニズムを知って、正しいカビ対策を始めてみてください。